『試合がすんで、私はテレビから眼をそむけた。中村チームが準優勝旗を渡されるところ、準優勝のメダルを首にかけてもらふところ、優勝したチームより中村のチームに對する拍手が盛んであつたことなどもあつたらしいが、私はそれを見なかつた。慾が出て、決勝戰で負けたことが口惜しくてならなかつた。ただ、準優勝旗を持つて、中村驛から母校までパレードをしてかへる彼等の晴れがましい姿を思ひやつた。』(随筆「わが母校 中村高校」より)

 高知県立中村高等学校の前身は、上林さんの母校「高知県立第三中学校」である。その母校が、昭和52年の選抜高等学校野球大会に初出場した。そしてあれよあれよという間に、準優勝までしてしまった。その決勝戦まで全5試合の観戦の様子が詳しく書かれている。上林さんが、病床で一喜一憂しながら応援していた様子がうかがえ、うれしくなってくる。
 「二十四の瞳」旋風が吹き荒れたあの時から、40年の歳月が流れた。

 その母校が、あろうことか秋季県大会で優勝し、「21世紀枠」ではあるが、今春の選抜高校野球大会に二度目の出場が決定したのだ。中村の街だけでなく、幡多郡内がその話題で持ちきりである。3月10日の抽選、そして、19日から始まる大会に向け住民のヴォルテージは上がる一方である。上林さんがお元気であったなら、今回はどんな観戦記を書かれるであろうか。

 優勝なんて高望みはしない。せめて一度だけでいいから、甲子園の銀傘に響く校歌が聴きたい。草野心平作詞のあの歌を、同窓生たちと肩組みながら甲子園の空に響かせてみたい。
♪雲うつす四万十の青 古城山緑ぞ迫る 美しき天の下なる学び舎に 光り輝く ああ中村 われらが母校 中村♪
 私の”ささやかな願い”である。

 少年・徳廣巌城たちが高歌放吟したであろう旧制中学校歌の1番は、
♪岩根こごしき古城山 流れ逆巻く渡川(四万十川) 山に不動の威厳あり 水に不朽の精気あり♪ であった。
 上林さんの随筆によると、昭和初期の総理大臣浜口雄幸の実兄青木義正(俳号・夢龍)校長の作詞だという。

 朝から、しとしと雨が落ちている。図書館も、文学館も、ホールや会議室にも、静かな時間が流れている。
 次回文学館企画展の準備にと、開いた全集15巻。ふと目にとまった”ひとつの随筆”から、選抜や校歌にまで”おもい”はふくらむ。肝心の企画展準備は、すっかり後回しになってしまった。

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 昨夜は、春一番か大風が吹いた。朝来てみると、あかつき館の玄関も駐車場も池の中も、落ち葉で埋まっている。さっそく「ブロワバキューム」を取り出し、吹き溜まった落ち葉の山を吹き飛ばしたり吸い込んだり。その後、汗びっしょりになった身体を、池の落ち葉すくいでクールダウン。12:00前までたっぷり2時間半、労働に励む。
 「こんな陰でのご苦労は、誰も知らないでしょうね。」
 散歩途中のおばさんの一言が、ありがたく心に沁みる。

 日曜日、いつもの「児童詩コーナー」の作品を入れ替える。

          うめの花
              高石小2年 森岡まさし

        家に帰ったら、
        うめの花が一つだけさいていました。
        お母さんに、
        「目をつぶって、こっちに来て、
         ぜったいあけたらいかんで。」
        と、ぼくが言いました。
        「えっ、何やろう。」
        と、お母さんが言いました。
        お母さんの手をひいて、
        うめの花のところまで
        つれて行ってあげました。
        「あけていいで。」
        と、ぼくが言うと、
        お母さんは目をあけて、
        「はるやねえ。」
        と、にこにこして言いました。
           (「やまもも」第20集・1996年)

 梅の花が咲いた。桜のつぼみも、なんだかふくらみを増してきたように思える。「春やねえ」、すぐそこまで来ている。もうすぐ、もうすぐだ。
 ”梅一輪 一輪ほどの 暖かさ”(服部嵐雪)
 
 グーグルで「梅一輪」を検索してみる。なんと、九十九里の地酒『梅一輪』にヒットする。素敵なネーミングだ。ぜひ一杯、出合える折が来ることを・・・。

 閉館直前、劇団「the 創」のNさんより電話が入る。伊禰子さんのおかげで、なんとか天沼の旧上林邸にたどり着けたこと。その上、紹介してもらったご近所の「魚屋さん」「米屋さん」では、お元気だったころの上林さんについてあれこれ聞かせてもらうことができたこと。などなど、口早に報告してくれる。
 「何だか、いい台本が書けそうだ」の一言に、今回の東京取材での確かな手ごたえが感じられた。今夜の夜行バスで、高知に帰ってこられるとのこと。本当にご苦労さま! ますます、10月7日の公演が楽しみになってきた。
 昨日、申し込みの電話をくれた町内のYさんと四万十市のSさんが、初参加。上林さんの本棚に興味を持って、1時間余話し込んだ四万十市Kさんも、少し遅れて参加してくれる。常連さんもふくめ15名の方々と、作品「尊者」を読み合う。障害者の愛さんを、尊者ととらえる上林さんの感性に、共感の声しきり。小児麻痺の少年健次にかける厚情。彼亡き後、五社の鼻に地蔵のように坐り続ける愛さん。多くの感想が語られる中で、上林さんの人間に注ぐまなざしのやさしさ、ゆたかさをあらためて確認し合うことができた。これで今年度の予定は終了。さて、17回目から始まる来年度にはどんな作品を読もうか。

 「いま天沼に来ているんですが、上林さんが住んでいたお宅へはどう行けばいいのでしょう。」
 昼過ぎ、突然「the 創」のNさんから電話が入る。10月に予定している演劇公演の下調べに、わざわざ東京まで出向かれたのであろうか。急遽失礼ではあったが、上林さんの娘・伊禰子さんにお電話し、対応していただく。Nさん、事前に連絡いただいていたらもう少しきちんと対応もできたのにと、ちょっぴり悔やまれる。でも、台本づくりのために、わざわざ東京まで足を運ばれるなんて、そのバイタリティや努力には驚かされる。ますます、10月の公演が楽しみになってきた。

 バタバタとあわただしく過ぎた土曜の一日。朝方はずいぶんあったかかったのだが、夕方には例年並みの寒さに戻るとの予報。今日の朗読のご褒美に、「美丈夫」(日本酒)でも買って帰ることにしよう。
2017.02.17 千客万来
 11:00前、朝日新聞S記者が取材に来られる。四国版の特集で”黒潮町”をとりあげ、その記事の一つに大方あかつき館も載せたいとのこと。さっそく2F文学館をご案内し、常設展「上林の展示資料」の説明や、企画展「ONL」の紹介などをする。12:30近くまで、たっぷりと取材してもらう。次は、防災缶詰工場などの取材時間が迫ってきているということで慌てて出ていかれた。

 15:00過ぎ、四万十市Kさん来館。「文学館に展示してある上林の蔵書についてお話を伺いたい」とのこと。特に、井伏鱒二の本に興味がおありのようで、本棚を前に1時間余り話し込む。話は上林文学とプロレタリア文学の関連性や中野重治、宮本百合子、小林多喜二にまで及ぶ。幸徳秋水やタカクラ・テルとの関係についても聞かれる。30歳前後かと思われる青年だったが、ずいぶん多くの作家の作品を読んでおり、逆にこちらがあれこれ教えられる。
 16:00過ぎ、高知朗読奉仕友の会Tさんより電話がある。「植田馨さんの『続・たんじまんじの記』を朗読ライブラリーに入れたいのですが。」とのこと。ただちに、ご長男Uさんに連絡し、許可をいただく。文学館や大方図書館にもご寄贈くださるとのこと、楽しみである。
 
 「知り合いの四万十市のSさんと一緒に参加します。」
 17:00ごろ、案内葉書を差し上げていた町内のYさんから、うれしい電話が入る。明日の「作品を読む会」(14:00~16:00)への参加申し込みである。あわてて2階文学館奥に上がり、『尊者』をもう一度朗読する。ちょっぴり声に力がこもる。
 昼休みのウォーキング後、文学館奥のスペースで、『尊者』の朗読練習をする。時々、幡多言葉の発音に気をつけたり、息継ぎや区切る個所、漢字の読み方を確認したり、立ち止まり立ち止まりしながら読んでいく。きっちり20分かかる。
 最後の場面がとりわけ印象的である。
『なるほど、遠くからでも、馬鹿愛の姿が見えた。鼻の突端にある芋畑のふちに、粗雑な垣が結へてあつて、そのうしろに、古ぼけた帽子をいただいた老人が坐つてゐるのが、透けて見えた。無念無想に陥つてゐるのか、身じろぎしなかつた。/私はあらためて、尊者を感じた。』(「尊者」より)
 読み終わって、ふと遠くに目をやると、大きなガラス窓を通して松林の鮮やかな緑が映る。白い壁の間からは、冬枯れた芝生の庭も見えている。大きく背伸びをひとつ、ついで腰もひと伸ばし。それから、ゆっくりと1階事務室に降りていく。
 「第16回上林暁の作品を読む会」は、週末の土曜日・午後2時からである。朗読後の話し合いでは、どんな感想や話題が出て来るのだろう。ワクワクしてくる。

 16:00過ぎ、読み聞かせボランティアのSさんがみえられる。先日、県立H看護専門学校で「絵本と癌がつながった」というテーマで授業をさせてもらったとのこと。その後で提出された学生たちの感想文を置いていかれる。急いで目を通す。
 そこには、30数名の看護師を目指す学生たちの新鮮な学びと感動の言葉がつづられていた。看護学生である彼や彼女たちの心に、癌患者としてのSさんの体験談は、強烈な衝撃をもって響いてきたのだろう。
 読みながら、私の心も揺さぶられる。それから、なんだかとっても幸せな気分になる。人間って、いいものだな。